TOKON10実行委員会公式ブログ

第49回SF大会TOKON10実行委員会の公式ブログです。
開催日程:2010年8月7日(土)〜8日(日)
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東京SF大全26 『K-20 怪人二十面相・伝』
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    トウキョウ、大サーカス!



    江戸川乱歩を生みの親にもつ「兄弟」、明智小五郎と怪人二十面相は、永遠のトムとジェリー。捕まりそうで捕まらない絶妙な距離を保ちながら二人は、激動の時代すらもすり抜けていく。――のだが、佐藤嗣麻子の手によって脚色された北村想『怪人二十面相・伝』においてはどうやら少し様子が違う。だいたい、そこは日本であって日本でなく、東京であって東京ではない。第二次大戦なき日本。華族という身分が制度としてあり、貧しいものから搾取する社会。そんな上層階級を標的に、魔法のような手口で次々と盗みを成功させる怪人二十面相を、なんとしても捕らえんと執念を燃やす探偵・明智小五郎。

    そこに現る1人の男。サーカスでアクロバティックな芸を披露する曲芸師である彼は、颯爽と登場したと思えば、怪人の罠に見事なまでにはめられて、「怪人二十面相」として逮捕されてしまう。男の名は遠藤平吉。サーカス団のカラクリ担当・源治とその仲間の泥棒たちに助けられなんとか脱獄に成功するも、太陽の下を二度と歩くことができなくなった平吉は、平穏無事な自分の生活を取り戻すため、泥棒稼業に仲間入りする。怪人と探偵、そしてサーカス男が織り成す不思議な三角は、広がり縮み、歪み丸まり、それ一個の生き物のように胎動しながら物語を駆動させる。

    ひたすらに見せる。見せる映画だ。サーカスのスペクタクルを、平吉のアクロバットを、東京の空を川を海を。某アメリカン・コミックスで有名な犯罪都市を連想させるような、工場の煤煙ですすけた空に、天まで伸びる勢いの羽柴ビル。そのビル内で行われる明智と羽柴葉子の結納の儀を、建物のガラス天井にへばりついて盗み撮る遠藤平吉。《見られる男》が《見る男》に反転したとき、その視線の先にあるものは、果たして何なのか。良家の子女が体現するのはありえたかもしれない東京の、ありえるだろう未来の姿。見せる映画は、見えないものもためらうことなく見せる。解散したサーカス団の子どもが移り住んだ野上という貧民窟。「見て見ぬふりをするのは十分、大きな罪です。この子たちを助けましょう」と声高らかに宣言する葉子は、見えていないことがはらむ政治性にそもそも無頓着だった。だが葉子が《見てはいけないもの》を見れたのは、《見られる男》であり《見る男》である平吉と時間を共有したからだ。つまり平吉には見える/見えないの政治性を、軽く――はないのだが、実際には――飛び越える力が宿っている。

    そして最後に結実する。「さあ、大サーカスの始まりだ」と東京へダイブする姿へと。(海老原豊)


    ここまではレビュー。ここから下はやや込み入った話かつネタバレを含むため、作品を未見のものはご注意を。(ドラッグ&反転)

    歴史改変物語が、それのみでSFたりえるかどうか。慎重な議論が必要だろう。歴史改変物語はあくまで私たちの住む現実世界というメタ・レイヤーとの比較を通じて浮かび上がってくるものだ。物語内での歴史改変は起こっていないという意味において、本作は至って普通の物語である。ただ注意したいのは、作品で重要なアイテムであり記号であるテスラ装置が、空間的に離れたものを攻撃する兵器であると同時に、(完全にファンタジー、つまり根拠のない読みであることは強調しておくが)時間的に離れたものをつなぐ装置であるのではないかという想像をSF者の中に生み出す。物語終盤で明かされた明智と怪人二十面相が空間的同一人物であることからさらに一歩踏み出し、平吉と怪人が時間的同一人物、つまり怪人はテスラ装置によって未来からやってきた平吉ではないか、という「ありえたかもしれない読み」が宙に漂い続けている。平吉と格闘していた怪人が明智であると分かる時、それは二重の衝撃なのだ。怪人が明智であるという驚きと、怪人が平吉でない驚きと。繰り返すがこの読みは最後の20分前までしか通用しない「ありえたかもしれない読み」だ。ただ可能性のみに着目するならば、これは、『K-20』が鮮明に見せ付けたありえたかもしれない東京のもつ可能性と、物語外のレイヤーを透かししているという点においてなだらかに繋がっている。回避できなかった戦争こそが『K-20』のありえたかもしれない東京を可能にし、SFでないことがSFを可能にするのだ。●
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