TOKON10実行委員会公式ブログ

第49回SF大会TOKON10実行委員会の公式ブログです。
開催日程:2010年8月7日(土)〜8日(日)
<< 特別掲載・東京SF論 『DARKER THAN BLACK 黒の契約者』 | TOP | 東京SF大全29・30  『白暗淵』『終着の浜辺』 >>
東京SF大全28 『風野又三郎』
0
    (童話・1924年頃の草稿(生前未発表)・宮澤賢治)

     今日は「気象記念日」である。1875年(明治8年)6月1日に現在の犁ぞ歡瓩砲△燭覘狹豕気象台瓩創設された。日本における近代的な意味での気象計測の始まりである。
     狹豕気象台瓩蓮■隠牽牽掲(明治20年)1月に狠羆気象台瓩伐称された。
     だから、この作品の主人公、風野又三郎は言う。
    「東京には日本の中央気象台がある」と。



    (ちくま文庫『宮澤賢治全集・第5巻』)

    (生前未発表の草稿 → 十字屋『宮澤賢治全集・第5巻』1940年(「風の又三郎・異稿」として提示)→筑摩書房『宮澤賢治全集・第6巻』(第一次)1956年(「風の又三郎・初稿」として提示。後記に初題が「風野又三郎」との説明あり)→筑摩書房『宮澤賢治全集・第6巻』(第二次)1967年(扱いは「第一次」に同じ)→『校本宮澤賢治全集・第8巻』1973年(この版から、タイトル「風野又三郎」となる)→筑摩書房『新修宮澤賢治全集・第9巻』1979年→ちくま文庫『宮沢賢治全集・第5巻』1986年→『[新]校本宮澤賢治全集・第9巻』1995年)

     猊の又三郎瓩任呂覆ぁかの有名な童話『風の又三郎』以前に宮澤賢治が書いた科学童話『風野又三郎』である。そこに登場する又三郎少年は「転校生」ではない。本物の「風」なんである!
    「東京には日本の中央気象台がある」
    と、風野又三郎は言う。
    「東京は僕たちの仲間なら誰でもみんな通りたがるんだ」
    と、風野又三郎は子どもたちに向かって話す。
    「気象台の上をかけるときは僕たちはみんな急ぎたがるんだ。どうしたって風力計がくるくるくるくる廻ってゐて僕たちのレコードはちゃんと下の機械に出て新聞にも載るんだらう。誰だっていいレコードを作りたいからそれはどうしても急ぐんだよ」
     レコードとはいっても音盤のことではない。「記録」のことだ。「中央」とは権威ある記録をする場所。ここ以外のところで、いくら速く吹いても、それは「ない」ことになってしまう。だから、彼らはこのように狹豕瓩魄媼韻垢襦
     しかし、「速く吹く」ことに、いったい何の意味があるのだろう?
     それを記録することに何の意味があるのだろう?
     それは、「近代」の問題とつながってくる。
     宮澤賢治の童話『注文の多い料理店』のラストの一文はこうだった。

     しかし、さつき一ぺん紙くづのやうになつた二人の顔だけは、東京に帰つても、お湯にはいつても、もうもとのとほりになほりませんでした。
    (東京光源社杜陵出版部『注文の多い料理店』(1924年)63べージ)
     
     「食べること」は考えても「食べられること」は思ってもみない東京の「若い紳士」二人を田舎の住人である山猫が恐ろしい目に遭わせる。
     賢治が東京に対してきわめてアンビヴァレントな思いをかかえていたことは、言うまでもない。
     又三郎は子どもたちにこうも言っていた。
    「旅行の方が東京よりは偉いんだよ。―中略―赤道から北極まで大循環さへやるんだ。東京よりいくらいいか知れない」
     そして彼は風の立場からいろいろな気象現象を説明してみせた。まさに科学啓蒙のための学習童話である。後年『風の又三郎』を完成させる際に、こういった部分は削除されてしまった。
     現在の目から読むと、そここそが非常に面白い。
     もともと科学とは、風の声を聴くためのものだった。気象の観測やデータ収集は、その手段である。測定器は風の言葉を人間に翻訳するための道具だ。それは、風に対する人間の優位を誇るものではない。人間と風との間にある隔てを取り払うのが科学なのだ。そのことが、よくわかる。 
     初めて科学と出会った時の日本人の驚きが、明治期から昭和初期にさかんに書かれた科学啓蒙書には詰まっている。世界認識の変換を迫る科学用語のロマンチシズム……そこには、多分、我々が選ばなかった未来がある。
     一切の判断停止を拒絶するあくなき好奇心でもって世界の全体像を推測しようとする試みが「科学」である。その意味では、科学とはSFの一種なのだ。そうなっていないとしたら、多分、その方が特殊なあり方だ。
     科学の素養があるからこそ、宮澤賢治は風の声を聴き、「風と婚する」と宣言した。そのことは、彼が残した童話や犹蹲瓠平款櫂好吋奪繊砲僚斗廛皀繊璽佞箸覆辰董△燭咾燭啗譴蕕譴討い襦
     生前未発表の草稿『風野又三郎』を、宮澤賢治と同時代を生きた人々は読むことができなかった。その作品を、今、我々はさまざまな『宮澤賢治全集』で簡単に読むことができる。
                                (宮野由梨香)



    (「気象庁」の建物は「東京管区気象台」でもある。「中央気象台」は1956年あ(昭和31年)7月に、気象庁となった。2001年(平成13年)1月の中央省庁等の再編に伴い「気象庁」は国土交通省の外局となっている。)
     


    (「気象庁」の一階には「気象科学館」があり、気象に関する様々な資料が置かれている。)



    (「気象科学館」の入り口を入ってすぐ右に、「中央気象台」の門標や写真が展示されている。)
    | 東京SF大全 | 06:01 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - | ↑PAGE TOP
    コメント
    コメントする









    この記事のトラックバックURL
    http://blog.tokon10.net/trackback/1050378
    トラックバック